年金生活者は、必ず確定申告書を作成してみましょう。
「えっ、作成?提出では?」と思われる方もいるかと思いますが、先ずは作成でよいのです。
提出するかどうかは、還付金が発生するかどうかで決めればよいのです。
国は以下のように言っています。
「その年中の公的年金等の収入金額が400万円以下であり、
かつ、その公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる場合において、
その年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下であるときは、
その年分の所得税について確定申告は要しません。」
すなわち、年金収入が400万円以下で、
年金以外の雑所得が20万円以下の方は確定申告しなくてもよいと言っています。
人によっては、特に、サラリーマンからリタイアして年金生活者になられた方は、
現役時代に確定申告とは殆ど縁がなかったせいで、
確定申告については、多かれ少なかれ煩わしさを感じているでしょう。
そんなときに、「確定申告、いりませんよー」なんて、国から言われたらどうでしょう。
確定申告する訳ないですよね。
しかし、そこが落とし穴なんです。
もし、かりに、還付金が発生する人が、確定申告しなかった場合、
その還付金はどうなってしまうと思いますか。
国庫に入ってしまうんです。
そうです。本当はあなたの財産になるはずだったお金が、なんと、国の財産になってしまうんです。
そんなのいやですよねぇ。
それでは、これからその仕組みについて具体例などを挙げて説明していきましょう。
■公的年金等の源泉徴収税額の計算
「公的年金等」とあるように、老齢基礎年金や老齢厚生年金などの純粋な公的年金以外に、
他の一部の年金も「等」として、ここからの話の対象になります。
公的年金等は、下式に従って計算された源泉徴収税額が、年金支給額から差し引かれ、
その残額が実際には支払われます。
源泉徴収税額=(年金支給額-控除額)×5.105%
控除額=(基礎的控除額+人的控除額)×12箇月
老齢基礎年金や老齢厚生年金などの公的年金は、この式の通りに計算されますが、
厚生年金基金関連の退職年金などはちょっと事情が違っていて、
この式の控除額から、調整控除額と称する額が引かれてしまいます。
そのため、仮に、支給額が同じだった場合、
公的年金よりも退職年金の方が多く源泉徴収されてしまいます。
この調整控除額の存在が一つ目の落とし穴です。
■源泉徴収税額と確定申告での税額の計算方法は違う
年金の源泉徴収税額は上記の式で算出されますが、
確定申告では、年金収入(その年の総収入)から公的年金等控除額を差し引いた雑所得から、
さらに各種所得控除(基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除など)を引き、
その残額に税率を乗じて算出されます。
この計算方法が違うという点が、二つ目の落とし穴です。
次に、この二つの落とし穴が、どの程度に還付金に結び付くか、実例を挙げてお示しします。
◆設定:Aさん
63歳でサラリーマンを退職、
現在64歳で厚生年金基金からの退職年金支給額が180万円、
老齢厚生年金(特別支給・全額支給は65歳から)が10万円。
59歳の配偶者(妻)は無職で収入なし。
配偶者の国民年金保険料はAさんが支払っており、夫婦は健康保険組合の健康保険に加入している。
扶養親族等申告書は提出済み。
◆源泉徴収税額の計算①
老齢厚生年金(100,000円)の源泉徴収税額控除額=
(90,000円+32,500円)×12個月=1,470,000円
「年金支給額<控除額」なので、源泉徴収税額=0円
②厚生年金基金からの退職年金(1,800,000円)の源泉徴収税額控除額=
(102,500円+32,500円)×12=1,620,000円調整控除額=870,000円
本当の控除額=控除額-調整控除額=1,620,000円-870,000円=750,000円
源泉徴収税額=(1,800,000円-750,000円)×0.05105=53,602円
Aさんの源泉徴収税額の総額=①+②=0円+53,602円=53,602円
◆確定申告での税額の計算
総収入額=100,000円+1,800,000円=1,810,000円
公的年金等控除額=1,810,000円×0.25+375,000円=827,500円
雑所得額=1,810,000円-827,500円=982,500円
社会保険料控除額=妻の国民年金保険料+健康保険料=176,180円+286,340円=462,520円
配偶者控除額=380,000円
基礎控除額=380,000円
総所得控除額=462,520円+380,000円+380,000円=1,222,520
「雑所得額<総所得控除額」なので、確定申告での税額=0円
◆Aさんの還付金額
還付金額=源泉徴収税額の総額-確定申告での税額=53,602円-0円=53,602円
これはあくまでも一例ですが、Aさんの場合は、源泉徴収された全額の53,602円が還付金として返還されます。
公的年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金)は、税制上確かに優遇されていますが、
退職年金などは、今回説明したように、調整控除が減じられるため、それほど優遇されているとは言えません。
そのため、公的年金よりも高い額が源泉徴収されています。
さらに、源泉徴収と確定申告とでは税額の計算方法が異なっています。
源泉徴収税額の計算では、社会保険料控除、医療費控除、生命保険料控除などの所得控除や、
さらに税額控除が加味されていないため、これらの控除額が大きい方では還付金が発生します。
自分の財産を少しでも守るために、めんどくさがらず確定申告書を作成してみましょう。
もし、万が一、逆に納付金が発生したとしても、冒頭の条件に該当している方なら申告する必要はありません。